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一生に残る最高のラストゲーム 縮まった王者たちとの距離―全日本学生ハンドボール選手権大会準決勝 対日体大

11月11日 宮城・グランディ21

 

「もう1試合やりたかったな」(山川慎太郎主将・経4)。試合終了のブザーが鳴った瞬間、さまざまな感情がセンターコートに渦巻いた。3年ぶりのベスト4進出を果たし、迎えた準決勝の相手は日体大。決勝進出を懸けて臨んだ大一番は26-28の僅差で惜敗となった。それでも最後まで『全員ハンドボール』を体現し続けた選手たち。最高の舞台で最高の仲間と駆け抜けた60分だった。

準決勝から始まった名前のコール。試合開始前、ベンチに座った選手たちはそれぞれの名前を呼ばれると応援席の歓声に応えながらコートへ走った。「3年前の忘れ物を取りにいこう」。山川主将が円陣の中でそう声を上げると、チームの士気は最高潮に。互いにハイタッチを交わし、各ポジションの守りについた。

 

▲試合直前の円陣で盛り上げる山川主将

 

最高の雰囲気で始まった試合だが、中大は前半序盤から中盤にかけて苦しい展開をしいられる。シュートチャンスに恵まれたものの、放たれたボールはゴールポストと相手キーパーに阻まれなかなか得点することができない。中村翼(法2)や安永翔(法3)、岩﨑滉大(文3)のシュートが立て続けに失敗し、チームに焦りの色が見え始めた7分頃に中大はタイムアウトを要求。ここで実方監督から「落ち着け」と選手たちは声をかけられたという。その直後、保利憲之朗(経4)が待望の初得点を挙げるが、日体大の圧倒的な攻撃に追いつけず中盤には痛い4連続失点。束の間に7点のビハインドを負った中大は反撃の糸口を見出せないまま前半の終盤戦へ突入した。

しかし、「最後の10分からボールがつながるようになった」(実方監督)とここから『中大らしい』ハンドボールが始まった。中村翼の速攻を皮切りに部井久アダム勇樹(法2)や藤田龍雅(法2)といった世界を舞台に活躍する頼もしい2年生がゴールを揺らし、およそ7分で3点差まで詰め寄った。こうして巻き返しを図った中大は11-14で前半を終え、なんとか3点差で希望をつないだ。

 

▲気迫あふれるプレーを見せたサウスポーエース・中村翼

 

それまで追いかけてきた日体大の背中が見えたところで始まった後半戦。山川主将のスカイプレーで幸先のいいスタートを切ったが、日体大の壁は高かった。保利が「日本一の速攻」と評する日体大の攻撃力と鉄壁のディフェンスを前に中大は連続得点を奪えない。その一方で、3回戦で好セーブを連発していた守護神・大西暁斗(法4)も「けがをしてしまってあまり調子が良くなかった」と相手のシュートを防ぐことができずに苦しんだ。後半16分には再び7点差をつけられ、攻守ともに歯車がかみ合わない状況が続いた中大。そんな時、立ち上がったのは山川主将と安永だった。「あの2人がこれまでのリーグ戦で戦ったメンバーでやりたいといってきた」(実方監督)。残された時間はあとわずか。コートには春からスタメンでチームを支えてきた選手たちがずらりと並んだ。

 

▲試合終盤の得点に沸く中大陣。コート、ベンチ、応援席、保護者とまさにチームが一体になった瞬間だった

 

「最後だから自分たちのやれることは全てやろう」(山川主将)。泣いても笑っても最後の15分間、そこにはドラマが待っていた。前半同様、中村翼のシュートで始まった中大の猛攻は蔦谷や山川主将の連続得点で一気に加速し、残り時間およそ5分を前にその差はついに1点となる。しかし、ここで勝負の1点をもぎ取ったのは元日本代表で今年から日体大に再入学した宮﨑だった。その後すぐさま連続ポイントを許してしまった中大は、最後に蔦谷が強烈なシュートをたたき込むも及ばず26-28で敗戦。指揮官は「7点差から1点差に追い上げるなんてすごいことだよ」と最後まで全力を出し切った選手たちをねぎらった。

 

▲試合終了の合図とともに立ち尽くす選手たち

 

春季リーグ、秋季リーグ、インカレと今年度の主要大会を全て3位で終えた中大。それでも、チームは確実に力をつけてきた。さかのぼること約半年前。思い返せば春季リーグ戦の開幕試合は日体大との対戦だった。終始試合の主導権を握られた中大は24-40で大敗。まさに実力差を痛感する一戦となった。だが、それから5カ月後の秋季リーグ6戦目。春のリベンジに燃えていた選手たちは日体大を相手に善戦を繰り広げた。惜しくも後半の失速が響き1点差で敗北したが、徐々に力の差は埋まってきているように思えた。そして、今回のインカレ準決勝。観客の熱い視線を浴びる大舞台で選手たちは最後まで全く予想できない戦いを見せた。また、今大会優勝を果たした筑波大に秋季リーグで勝利するなど王者たちとの距離を一歩ずつ縮めている中大。夢にまで見た決勝への切符を手に入れることはできなかったが、この経験は下級生たちの自信となったことに間違いない。

 

▲1年生ながら今回のインカレで大活躍だった蔦谷。今後の飛躍に期待がかかる

 

そして、これまでチームを支えてきた4年生が今大会をもって引退を迎える。試合後、悔しさからコートやベンチで天を仰ぐチームメイトを鼓舞したのは4年生だった。「4年生には感謝しかない。この学年はメンバーに入った選手はもちろん、試合に出ていない選手たちも裏方でよく頑張ってくれた。それですごくいいチームになったね」(実方監督)。そんなチームをまとめてきたのはまぎれもなく誰よりも優しくて一生懸命なキャプテンだった。「最初は頼りないと心配されていたけど、そんな自分を信じてくれて、最後まで一緒についてきてくれたチーム感謝している」(山川主将)。一生に残る最高のラストゲームを終えた4年生は達成感に満ちあふれているようだった。

 

▲互いの健闘を称え合う高校時代からのチームメイト、保利と大坂間慶裕(法4)

 

今年度掲げてきた目標である『インカレベスト4』は達成した。「来年のチームは3位じゃ物足りないと思うので、上を目指して頑張ってほしい」(大西)。今回インカレを経験したメンバーが多く残り、選手層も厚い来年度は周りからの期待値も必然的に高くなることだろう。しかし、マネージャーとしてチームを長らく支えてきた志村菜々子(商4)からはこんな声が聞かれた。「もちろん優勝してほしい気持ちもあるけど、みんなが楽しそうに試合をしているのがかっこ良かった。勝ちにこだわりつつも、楽しんでやってもらいたい」。試合を楽しむ気持ちを忘れずに、4年生から託された『今年の忘れ物』を来年こそは取りにいきたい。

 

▲表彰式後の全員写真。前列に並ぶのがチームをけん引してきた4年生たち

 

◆大会結果◆

①筑波大

②日体大

③中大、法大

 

準決勝

●中大26(11-14、15-14)28日体大○

 

表彰選手

優秀選手賞:山川主将

特別賞:保利

 

コメント◆

実方監督

「自滅しましたね。準決勝はセンターコートで独特な雰囲気だったし、勝ったら決勝ってこともあってみんなの気合が入りすぎたかなと。ディフェンスは悪くなかったけど、中大の攻撃ができなかったという感じです。やっぱり60分を通していいゲームをしないといけないね。来年もメンバーは残るので、同じようなハンドボールをしていきたいなと思っています」

山川主将

「最後の15分は本当に楽しかったです。今の中大には実力はあるけど、あと2点越えられなかったのは何かが足りないということ。3年生以下はこの準決勝で感じとったことをこれからに生かしていってほしいと思います。今年のチームは上級生はもちろん、1、2年生も積極的に発言してくれて本当に全員でやっているチームでした。今年の試合を通して一つの中大の形が少しでも見えたかなと思うので決勝にいくのは難しいことだけど来年は優勝してもらいたいです」

 

◆お知らせ◆

後日、4年生コメント集および個人記事を掲載予定です。ぜひご覧ください

 

記事・写真:「中大スポーツ」新聞部