中スポと明スポが協力し、様々なパラアスリートを取り上げていくパラリンピック特集企画。第二弾は男子パラカヌーの高木裕太選手です。2017年からパラカヌーを始めると、短期間で成長を遂げ、2018年には日本代表として海外のレースに参加するなど期待の選手です。そんな高木選手に過去の経験やパラリンピックにかける思いなどを熱く語っていただきました。
※記事は前編と後編に分かれており、今回は前編の記事となります。なお取材は11月にzoomにて行いました。
▲カヌーを漕ぐ高木選手
――事故にあった時の心境を教えてください。
まず「生きていた」というのが最初に思ったことです。入院期間が6ヶ月あったのですが、その間に自分の体がすごく変わってしまって。胸から下の感覚がなくなってしまったことを知った時は、ショックというよりは「自分の力で生きていかなければいけない」という思いが強かったです。ですので、その後のリハビリにすごく一生懸命取り組みました。
――リハビリ生活はどのようなものでしたか。
歩くことができないので車椅子で生活していくことが必要になりました。大抵、自分の手で自分の体を動かしていくので、「自分の使える手を使った生活をしていくためのリハビリ」が基本になっていました。最初はベッドから車椅子への乗り移りでしたり、床から車椅子に乗ることでした。
―-入院中、1番辛かったことはどんなところですか。
入院中はやはり遊びに行くことも自由にできなかったので、自分の中では暇というのが1番辛かったですね。大学1年生の頃ですので1番遊びたい時に半年間入院というのはやはり辛かったです。最初の4ヶ月くらいは「リハビリをガンガンやって、自分の自生活を確立していかなければ」という気持ちでしたが、その後4ヶ月くらい経つとある程度自分でできるようになっていたので、「スポーツしたいな」だとか「外で遊びたいな」という気持ちが強くなりました。
――そのような思いから車椅子ソフトボールを始めようと思ったのですか。
車椅子ソフトボールより先に車いすテニスをしていました。入院中に車いすテニスを紹介していただいて、退院してすぐ始めました。その車いすテニスでできた友達が車椅子ソフトボールをしていて、練習に参加させていただいたのが車椅子ソフトボールを始めたきっかけです。
――なぜ車椅子ソフトボールをやめてパラカヌーを1番にやることになったのですか。
車椅子ソフトボールはやめたわけでは無く、今も続けています。練習にはあまり行けていないですが(笑)。所属チームの拠点が住んでいる岐阜ではなく大阪にあるので、大阪に帰ったときに練習に顔を出したり、スケジュールが合えば大会に参加したりしています。
車椅子ソフトボールはパラリンピックの競技種目に現在は入っていないため、まずパラリンピックを目指すというところで、カヌーを1番に取り組んでいます。
――パラカヌーを選んだ理由を教えてください。
車いすバスケットボールやパラアイススレッチなど様々な競技を体験していく中で、パラカヌーに出会いました。
体験で艇に乗った時に、こんなに自然の中で、水の近くで行うスポーツがあるのかと思い、特に「水の上にいる」という感覚は、今まで19年間健常者として生きてきた中で経験したことの無い新しい感覚でした。それまでは競技自体も全く知らなかったのですが、そこで出会った新たなスポーツに「ちょっと挑戦してみたい」そんな気持ちになりました。さらに力を使うスポーツだということも聞き、「自分の力だけで艇を進めていく」というところにも魅力を感じ、パラカヌー をはじめました。
――パラカヌーで1番苦労することを教えてください。
やっぱり1番苦労するのは艇に乗ることですかね。1番最初の難関でもあります。最初の体験で乗らせていただいた艇は幅の広い船でしたので転覆しにくい艇でしたが、競技で使用する艇はかなり細い艇になります。それにうまく乗ることに時間がかかりました。
乗るためには自分の体にあった「バケット」と呼ばれるものを作成しカヌーに固定します。自分は体幹が効かないので、その弱点を補って行くためには重要になります。そのシートがなかったら乗れないというくらい重要です。
――カヌーは足を踏ん張るが、その分手の負担はかなり大きくなりますか。
そうですね。自分は使える部分が胸や肩など体の上の方ですので、手への負荷はすごくかかります。水を掴んでからしっかり引く必要があるのですが、その際、力がとても重要になります。使える部分が少ない分、使えるところはしっかり鍛えて補えるようトレーニングに取り組んでいます。
――パラカヌーの魅力はどんなところですか。
「自分の力で進んでいく」というところが1番の魅力です。他にも自然の中でやるスポーツというところも魅力です。朝方に多くみられる水面の鏡面でしたり、フラットな状況の水上で自分の艇だけを進めていくことがすごく自分は好きです。しかし、自然なので台風などの影響も多いです。天災の中でも「良い時」と「悪い時」と別れますが、その「良い時」には、ずば抜けて気持ちいいスポーツだと感じます。
――どのようなところに注目してパラカヌーを見てもらいたいですか。
速さくらいしかないですね(笑)
ただ、見ていて自分自身もそんなに楽しいスポーツかな?と少し感じてしまう時があります。
海外の大会はもっと盛り上がったりしているのですが、現状日本で大会をやっていても、「あれ、これ大会やっているのかな?」と感じることさえあります。やはりその原因として日本は競技関係者しか集まっていないというのが大きな要因ではないかと思います。車いすバスケットボールなどの室内の競技の場合、東京で大会も行われることもあるので多くの観客が集まったり、自分の友達が応援に来たりと盛り上がりやすいと思います。しかし、パラカヌーは香川県や石川県などなかなか来場しにくい場所での大会が多いです。水上のため、地方での開催が多いので、やはり観戦に来る人は少ないです。観戦中にどこで盛り上がるのかという点に関しても、難しいところがあります。200メートルの競技なので一瞬で終わってしまうんですよね。1分程度で終わってしまう。競技の知識があって知っている選手がいらっしゃったりすると、競争を見てるのは面白いかもしれないですが、誘われて初めて来たような人にとっては、もしかしたら面白くないかもしれないです。ですので、例えばパラカヌーの魅力や選手の紹介を会場のアナウンスであったり、告知などでの発信にもっと力を入れていけば一般の人が来ても楽しめるようになるのではないかなと思います。
次回はインタビュー記事の後編です!お楽しみに!
〈高木裕太選手〉
インフィニオンテクノロジーズジャパン所属。元々野球をやっていたことから車椅子ソフトボールも経験。パラカヌーではKL1男子の種目で2017年の日本選手権優勝。その後日本代表として世界大会にも出場。現在は岐阜に拠点を置き、パラリンピック出場に向け練習に励む。
写真:つなひろワールド 記事:「中大スポーツ」新聞部