今大会、中大出身の指揮官は前回から一人増えて4名。各監督はそれぞれどのような信念で指揮を執っているのか、箱根路でどんな争いを繰り広げるのか─。
第10回は立大・上野裕一郎監督。箱根駅伝特集号紙面には載せきれなかったインタビュー全文を大公開。(取材は12月7日に行いました)
<上野監督プロフィール>
上野裕一郎(うえの・ゆういちろう) 1985年(昭和60)7月29日、長野県生まれ。佐久長聖高卒、2004年に中大入学。4年連続箱根路に出場。3年次には3区・区間賞。卒業後はエスビー食品、DeNAで競技を続けた。18年から立大の駅伝監督に就任し、わずか4年で本戦復帰を果たした。立大の箱根出場は実に55年ぶり。シード権圏内の10位を狙う。
“走る”指導者
——今回の箱根駅伝には4名、中大出身の監督がいますね
「中大卒だということをあまり大きく意識はしていないですが、指導者の先輩としては意識していますね。多くの中大の監督が大学駅伝界にいる中で、今回私も出られるようになったのはうれしいし、ありがたいです。やっと同じスタートラインに立てたという思いです。」
——過去のインタビュー記事で「スカウトについて大志田監督に話を聞いてみたい」と仰っていました
「初年度の方の記事ですね。実はその話は聞いてないんですよ。ありがたいことに思った以上にスカウトが上手くいけたので。確かに大志田さんのメソッドと、最初の頃の立教大が狙う場所はだいぶ一致していましたが、途中から東京国際もうちも色々考えが分かれてきて、今は自分の考えを信じているという感じです。」
——榎木監督や藤原監督との情報交換は
「藤原監督はMARCHなので記録会とか試合とか色々なところで会うので、お話は結構させてもらっています。榎木監督はフレンドリーに接してくれますね。僕は記録会でペースメーカーをやってるので『今日何秒でいくの?』とか『この選手このくらい出したいんだよね』とかいう話はしますね。」
——指導法など参考にすることはあるのですか
「指導方法については誰にも聞いたことはないですね。みんな一緒だったら、大学名で学生たちが選んじゃうから。それだと立教大学も結局どこかの大学に似ちゃうので指導方法は聞かないですね。」
——榎木監督に取材をした際に「立大は上野イズムが植え付けられている」とおっしゃっていました。ご自身で「上野イズム」を定義するとしたらいかがでしょうか
「学生と同じ目線で寮にいたり、練習したり、監督というよりも一緒にやる形ですね。監督がやることって偉そうに物事を話すのではなくて、『学生がやりやすい環境を作ってあげる』のと『話を聞いてあげること』だと思っています。今はまだ体が動くので、同じトレーニングをしている中で『ここらへんがきつくなってきた』というのを言えますよね。上野イズムっていうのをあまり考えているわけではありませんけど(笑い)。人から見たら独特の指導法ですよね。」
——一緒に走って指導しているのは特徴的ですよね
「私がこういう形をつくれるのは立教大学がこの指導スタイルに納得してくださっているというところが一番大きいですね。あとは、マネージャーが16名いるんですよ。一人一人が監督の負担を軽減するようにって動いてくれているんです。学生主体で監督はベースを作ってあげるというのがこの大学のスタイルです。学生たちが必死に動いて、学生たちなりに進歩していくのが学生スポーツだと思っています。監督の指導スタイルとマネージャーの頑張り、大学のサポート、それを選手が感じながらトレーニングや学業に打ち込んでいることがうちの特徴だと思います。」
——11月の日体大記録会5000㍍では13分台、日本人トップの結果を出されていました
「タイム出すためにトレーニングはしてません。学生たちに『監督はなんであのタイムで走れるんだろう』って思われていると思います。練習をほとんどしてないんで。あれだけのタイムが出るのはもともとの基盤みんなより高いというのと、毎週定期的に試合をしているというところですかね。」
——中大時代は箱根で区間賞を獲得。指導者として当時を振り返っていかがですか
「学生時代に走っている時は、自分で何でもできると思ってやっていました。駅伝でも自分で体を動かせば大学ひとつの流れを変えれるというように。でも、自分一人じゃできないこともあるというのを昔の自分に言ってあげたい。昔はもう自己主張が強いキャラだったので。当時学んだことというよりも『学べ』と教えてあげたいです。ちゃんとやればもっと強くなれたんだと思います。」
——自己主張が強い学生だったんですね
「いま指導者という立場ですが、こういう学生がいたら嫌だという特色ナンバーワンですね。言うことは聞かない。なんか自由にやる、でも試合は走る(笑い)。あまり見本にはならなかったです。自分を見本にする後輩は誰もいなかったと思います。もうちょっといろんな欲を抑えながら日々しっかりとトレーニングをしたらすごいタイムが出たこともあったんじゃないかな(笑い)。」
——監督就任の話があった時、指導者になろうと思った理由は
「話を聞いたときに、夢のある学生を育ててみたいと思いました。まだ全然目もかかってない大学だし、強い子はいないだろうけど、0から自分で作っていきたいなという気持ちでした。」
中大をどう見るか
——今の中大をどう見ていますか
「立教大学とスカウトがダブったりしますけど、すごく簡単に選手を獲られてしまうんですよ。だからいい選手が入ってると思いますよ。」
——上野監督目線でどのように区間配置をしますか
「2区に中野(翔太・法3)君が走れば…。でも全日本出てなかったからな…。万全だったら中野君が2区にいれば面白いかな。逆に大和、中野、駿恭、後半にこのメンツのどれか一人か二人、回せる状態であればもっと強いと思います。8区か9区に置けちゃうとか。みんなが通常の状態でスタートラインに立てたら中大の優勝はあると思います。それが一番難しいですけどね。」
——特に注目してる選手は
「溜池(一太・文1)君と中野君。吉居兄弟はもう当たり前だと思ってます。あの二人は100%走らないといけない立場なので、キーマンは中野君と溜池君だと思ってます。山には阿部(陽樹・文2)君とかいますし。中大は復路が強いから、復路でしっかりと粘り込めれば優勝もあるんじゃないかなと思っています。メンバーはいますからね。選手たちが監督のため、自分のため、チームのためにどれだけ『箱根駅伝で優勝』というところを想っているかじゃないですか。」
——溜池選手はまだ1年生ですがキーマンであると
「1年なのに安定感すごいですよね。どのレースも大きく外さないし少しずつベストを更新してくるし。爆発力はまだ足りないと思うんですけどね。本人には直接声をかけなかったですけど、僕も彼は良いなとは思っていて。どこから勧誘が来てるんだろうってお聞きしたら中大って言っていたので、ちょっと手を引いたっすよ(笑い)。」
——そんな逸話があったんですね
「勧誘で見ているところは中大と一緒なので。良いなと思った学生には伸びて欲しいですよ。溜池君に関してはそうですし、中野君はそんなに接点がありませんけども、走り方を見ていて『嫌いにはならないだろうなこの子』って思います。吉居兄弟とは昔から仲が良いから。」
——吉居兄弟との関係性について
「仙台育英によく遊びに行っていたので。遊びというか勧誘に行っていて。全然声がけはしていないですよ、もう行く場所が全部決まっていたから(笑い)。でもよく話していたから、今活躍している事はすごくうれしいですね。だから母校が早く優勝しているのを見たいな。初めて監督として出た箱根で母校が優勝してくれたら運命を感じますよね。今年は応援してますけど、来年以降は追いつけるように頑張ろうと思います。」
——中大とスカウティングで競合した際に「立大のここが強みだ」といえる部分は
「自分ができることは、他の大学の監督以上に学生のことを思って指導していくこと。強い弱い関係無しに誰でも接していくことができて、できるだけ近くに寄って話していける。あとはライバルでいてあげられることですね。走っても負けないよって。『(自分に)勝ったら箱根の復路で区間賞取れるんじゃない?』とか。冗談でも言える(笑い)。そういうところぐらいですかね。自分がアピールできるところは。あとは(中大の)藤原監督の方が実績も、経験もすべて上ですので。でもいつか5年10年が経った時に追いつきたいなと思いますね。」
——先ほど「通常の状態でスタートラインに立つのは難しい」というお話がありましたが、選手の調整についてどんなことを意識して指導されていますか
「うちは監督がピークを合わせるんじゃなくて、自分でピークの合わせ方を勉強しろと言っているんですよ。ポイント練習以外のときは、あえてペースとか時間に幅を持たせて自分で考えさせるようにして、普段の記録会とかで色々な形を試してみなさいと言っています。でもそれって難しくて。なかなかうまくいかない者もたくさんいるだろうし、でも試行錯誤してたどり着くことが陸上競技の面白さであるとも思うんですよね。」
——最後に立大の箱根駅伝での展望は
「全区間10番で総合10位が目標です。誰も大きなブレーキをしないというのがうちの必須条件で、快走はいらないから、ちゃんと走って『シード権獲得』を目標にしています。」
(取材・構成:鈴木咲花)
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