「全日本(選手権大会)では何も出来ずにクルーをバラバラにしてしまった」。こう語るのはコックスの星逸人(法3=中大杉並)だ。全日本選手権大会(以下全日本)では男子舵手付きフォアのコックスとして出場するも、結果は準決勝4着と決勝に進むことができなかった。
だが、「期間が短かかったので、やることをちゃんとしようって、みんなで話をして1コきめようというのは意識していた」と、全日本の2週間弱後に行われる全日本大学選手権(以下インカレ)に向けて、すぐに気持ちを切り替えた。
コックスとはオールを持たずにボートに乗る特殊なポジションである。つまり「直接船に対してスピードを与えることはできないポジション」なのだ。では、どのようにしてボートを前に進めるのか。それはコックス自身の声だ。「自分自身がどれくらいみんな(漕手)にいい影響を与えられているか分からない」と星は言うが、漕手の一人である仲川(耕平・商2=日大鶴ヶ丘)は「レース中盤・終盤で意識がだんだんなくなってくると、コックスのかけ声は大事になってくる」とコックスの重要性を説く。必死に漕いでいる漕手をいい意味で冷静に観察し、ここぞという場面で指示を送る。いわばボート上のコーチだ。
星は「事前に決めていたレースプランであったりとか、自分たちが武器にしていた自信のあるものとか、しかけるべきところで動いたときとか、自分も含めてクルーで作ろうとしていたものが出せたときは、やっぱり気持ちいいと思う。みんなで決めておいたことがしっかり実現できて『決まった!』っていう瞬間をレース中にしっかり感じられる」とコックスの醍醐味を語る。
レースの作戦を練るにあたって、他校の分析をするかを尋ねると、意外にも「あんまりしないです。他校はどうでもいいですね」という答えが返ってきた。「自分たちのクルーがやってほしいということだけを何とか出来れば僕は力になれるのかなと思っているので」と自分たちのクルーだけと真剣に向き合い、レースの作戦を練っている。
▲先頭に乗り、「声」で船を前に押し進める
迎えた全日本、男子舵手付きフォア決勝。スタートダッシュに成功すると、一気に2位以降と差をつける。途中1000 ㍍付近で2位の早稲田大学に詰められるも、「隣にいるなーくらいで漕いでて、そんなに気にはしてなかった」(永井嵩士・理工3=富士河口湖)とクルーに焦りは全くなかった。
そしてレース終盤、ラスト500㍍。「シェアはした」と星はラストスパートのコールを漕手に送る。そのコールに漕手が見事応え、一気に2位と差をつけ1着でゴール。
▲コックスのラストスパートのコールで最後の力を振り絞る漕手たち
インカレで舵手付きフォア優勝を成し遂げたが、この結果に満足している選手は誰一人いない。選手が目指しているのはあくまで「エイトで優勝」。今大会での舵手付きフォアの経験を糧に、来年のインカレではエイトの船の上で勝利の雄叫びをあげていることに期待したい。
▲表彰状とトロフィーを手に笑顔を見せる5人のクルー。だが、目指すは「エイトで優勝」。来年は心からの笑顔を見せてくれるはずだ
※この取材はインカレ後の11月中旬にZoomにて行いました。
◆大会結果◆ 10月25日 戸田ボートコース
男子舵手付きフォア決勝
①中大(中曽根祐太・商3=小松川、仲川耕平・商2=日大鶴ヶ丘、小野祐樹・理工2=吉田、永井嵩士・理工2=富士河口湖、cox星逸人・法3=中大杉並)6分32秒36
記事:「中大スポーツ」新聞部
写真: ボート部