今大会、中大出身の指揮官は前回から一人増えて4名。各監督はそれぞれどのような信念で指揮を執っているのか、箱根路でどんな争いを繰り広げるのか─。
第11回は東国大・大志田秀次監督。箱根駅伝特集号の紙面には載せきれなかったインタビュー全文を大公開。(取材は12月7日に行いました)
<大志田監督プロフィール>
大志田秀次(おおしだ・しゅうじ)1962年(昭37)5月27日、岩手県生まれ。盛岡工高卒、81年中大入学。箱根は2度出場し、4年次は8区・区間賞。本田技研入社後は中距離を中心に活躍。引退後、94年~99年は中大のコーチを兼任し、母校の箱根32年ぶりの総合優勝に貢献した。11年に東国大の監督に就任。16年に箱根初出場、20年に初のシード権を獲得した。
ヴィンセントは8〜9割回復
──箱根駅伝まで1か月を切りました。現在のチーム状況はいかがでしょうか?
「出雲、全日本とチームとしてはいい状況ではなかったですが、その結果を踏まえ、いま何をするべきかに修正をかけて本番に向けて微調整をする時期に入ってきています。」
──改めてここまで駅伝二戦を振り返っていかがですか?
「もう少し選手が機能するかなと思っていて、全日本はシードを獲得するというのが最低の目標で、出雲は昨年優勝したので今年は3位以内を目標に出場した中で予想を下回っているので、選手の方が不安になっている部分があると思います。残りの期間でその不安を取り除いてあげたいなと思います。」
──不安を取り除くため、具体的に何に取り組まれましたか?
「全日本を終えてから11月末にトラックレースを予定していたのをキャンセルして、合宿を行い箱根に向けて距離を踏んだり、疲労をためながら練習の継続をしたりと体力強化に努めました。」
──出雲・全日本を欠場したイエゴン・ヴィンセント選手や山谷昌也選手の動向が気になります
「山谷は試合に出るレベルにはないにしても、あと3週間ほどあるので作り込んで仕上げの段階に入っていきたいと思います。ヴィンセントの方は一つの駅伝でレース中にアクシデントが起こることが考えられたので、レースを回避して箱根に向けてという流れなので、回復の状態は8~9割方大丈夫だと見ています。」
中大OBは仲間
──今大会は中大OBの監督が4名います
「OBとしてはすごくうれしいというか、創価大の榎木監督は私が中大のコーチをやっていたときの選手ですし、藤原監督は私がホンダの社業に戻るときに中大に入ってきてくれた選手ですし、私が所属していたホンダで競技をやっていたというところで指導方法や流れが近いかなと思います。上野監督はその後に入ってきた選手だったので、なかなか話す機会はなかったですが、監督として話すときには中大らしさを感じます。」
──中大OBとして共通点もありながら、やはりライバル心のようなものもありますか?
「私が年長者でなので後輩たちに負けたくないなという部分はありますが、やはり仲間なのでお互いに良いところをリスペクトしていますし、取り組み方や考え方など学ぶ点も多く、良いところを素直に吸収し合える存在だと思います。」
──大志田監督がホンダと中大のコーチを務めておられた時期に藤原監督(西脇工高時代)を勧誘したと聞きました。
「いまホンダで監督をしています小川智(平12卒・現Honda陸上競技部監督)さんがいるのですが、その小川さんが、私が中大のコーチをしていたときに入学して私は彼を2年間しか指導することができなかったのですが、その中で藤原君とのつながりを大事にしたというところがありました。」
──藤原監督(西脇工高時代)をスカウトした理由は何ですか?
「5000㍍を走る選手を主体で勧誘するのですが、当時藤原監督は3000㍍障害を専門にしていまして、その中で障害という上げ下げのあるレースで最後まで粘って競り合いに強いなという印象を受けました。」
──大志田監督が中大コーチ時代に榎木監督をご指導されていました。当時、榎木監督はどのような学生でしたか?
「榎木監督は線が細くてけがが多く練習があまり消化できないイメージがありましたが、箱根では4年連続で区間賞を取っていまして、駅伝になったときの強さは際立っていました。指導する中では、1月2日、3日にどう体調を合わせるかというところで逆算をしてこの時期までにはけがを治したい、この時期までには走れるようになればいいというところで個別で指導していました。」
──上野監督とは立大に赴任してからご交流が深まったのですか?
「当時は浦田春生(昭59卒・現長距離ブロック渉外担当)さんが監督だったころに臨時コーチをしたことがあり、上野さんを見てすごいセンスだなと。当時、中大には5000㍍を13分台で走るランナーは彼しかいなかったと思うのですが、競技力のある選手だと感じていました。」
大学から駅伝の道へ
──大志田監督は学生時代に2度箱根路を走っています
「私は元々、800㍍や1500㍍など中距離をやっていまして、中大が箱根駅伝に出ていることは知っていましたが、箱根駅伝の規模や注目度に気づかされたのは大学に入ってからでした。大学1年のときはメンバーに入りましたが本番走れず、1年の後半からけがをしてしまって2年間くらいレースに出ることができませんでした。そして、正月の箱根を目指すのがチームの目標だったり、OBからの期待もすごく高かったりと、箱根を意識し始めたのが3年になってからですかね。中大にとって箱根駅伝は皆さんの期待も高く、どんな状態でも目標は優勝という状態だったので、優勝しなればいけないチームなのだなと感じましたね。」
──大学に入って中距離から長距離に転向したのですか?
「そうですね、高校の時も5000㍍はやっていましたが、15分20秒くらいかかっていました。今だと中大に入れない記録ですね。入学当初は箱根というよりも800㍍や1500㍍で強くなりたいというイメージがありました。」
──中大コーチ時代には32年ぶりに総合優勝を果たしました
「毎年、中大は6連覇してから優勝がないということで常に優勝を意識している大会でしたので、今までのOBの方の思いが達成できたというところでうれしかった、安心したという気持ちでした。」
個を生かす指導
──榎木監督・藤原監督とも、大志田監督の指導法に影響を受けていると話していました。指導するにあたり大切にしていることはありますか?
「彼らもうまいですね、先輩を立てるということをわかっていますよね(笑)。榎木監督が選手時代は故障を繰り返していたので言い方を変えると、手のかかる選手だったんですよね。ただ、それを「個」だと思っているんですよ。「個」をいかに集約させて10人選ぶ、16人選ぶというところだと思っているので、個にターゲットを当てて話を聞いてこちらの意向を伝えて共通するものを結び付けていくのが指導者としての理想です。」
──個人にフォーカスしていき、調整を図っていくということでしょうか?
「人によっては、全体でやった方がいい選手、個人でやった方がいい選手など見極めは大事だと思うのですが、求めることは全て同じになるのでアプローチの方法を個人に合わせて変えていくところが大事だし、人と競ることでうまくいかない選手もいますし、逆に人と一緒にやった方がいいという選手もいて、選手の目の色だったりを感じながら指導にあたっています。」
──先週、榎木監督・藤原監督とお会いしたということをお聞きしました。どのような話をされたのですか?
「箱根が迫っていることもあり、みんなで情報を共有してお互い頑張れるといいよねという話をしましたね。あとは、『吉居君どこで使うの?』とか聞きましたね。本音は出なかったですけれども(笑)。逆に、『ヴィンセント君どうですか?』とか、『山谷君、最近レースに出てましたね』とか聞かれましたね。探り合いというよりも、素直に近況を報告し合いましたね。」
──それぞれのチームについてどのような印象を持っていますか?
〈中大〉
「箱根に出てもシードを取れなかったという状況から吉居大和(法3)君という選手が入学してゲームを変えられる選手が入ってきて、それに憧れて多くの選手が入ってきている。また、吉居君と一緒に強くなっている選手が4年生を含めているというところで、穴がないチームだなと思っています。展開次第では優勝に絡むチームづくりが着実にできていると感じます。」
〈創価大〉
「前々回、総合2位で10区までトップというところでいうと、短い期間にいいチームづくりができていると思います。その中で4年生の嶋津君や葛西君などのキーになる選手が今年もしっかり走れているというところは3番に入れるチームづくりができているかなと思います。」
〈立大〉
「4年で本戦に出るというところ、我々が10年かかったところを2年くらいでやっているなと思います。スカウトも含めてスピード感があると思います。」
──その上で、今年の東国大の強みをお願いします
「我々が駅伝部と名乗っているのは、トラック&フィールドではなくて、駅伝に特化しているということで、この大会を目指してやってきています。私は強化のなかで4年間しっかり強くなっていくというところを重視していまして、今年は4年生が6人いて1人は留学生なので5人は走るチャンスがある。チームの柱がしっかりそろったというところはチームの強みとしてアピールできるのかなと思います。」
──箱根駅伝において4年生の力は大きいと感じますか?
「いろいろなものを見聞きした経験とこれで最後だという思い入れは、比べるものではないかもしれないですが、下級生よりは強いものがあると思うので、思いっきり走らせてあげたいと思います。」
──大学過去最高順位の3位達成に向け、抱負をお願いします
「今年の4年生が最強の学年だと思っていますので、決して簡単に達成できるものではないですが、これまでチャレンジをしてきた成果を存分に発揮したいと思います。応援よろしくお願いします。」
(取材・構成:若林拓実、写真提供:東京国際大学)
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