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【第166号掲載記事】トラックの王者中大7冠!エース山本最後のインカレと自転車への思いー第76回全日本大学対抗選手権自転車競技大会トラック大会

▲4㌔インディヴィデュアルパーシュートの表彰式後にウィニングランをする山本

※「中大スポーツ」第166号1面の本文を掲載しております。

 

2021年8月13〜15日 松本市美鈴湖自転車競技場

中大自転車競技部がインカレトラック大会で総合優勝を果たした!9種目中7種目の優勝と圧倒的な強さで王者の実力を証明した。抜群のスプリント力で競り勝った山本。マディソン、4㌔インディヴィデュアルパーシュートで二冠と、エースとして臨んだ集大成の舞台で栄光をつかみ取った。

◇   ◇   ◇

やっぱり中大は強かった。4年間の集大成にふさわしい、不屈の走行。マディソンのゴール直後に見せた山本の笑顔に、自然と絶対王者の夢を映す。インカレトラック大会総合優勝。選手の努力が、一足一足に懸ける思いの全てが、長野の真夏の空に結実した。

これぞ『エース山本』だった。スプリントで無類の強さを誇る男は持久力も圧巻。「マディソンは前日の夜から厳しいレースになると思っていて(出場チームの中で)1番耐え切れた結果」。共に走り、共に戦う。序盤から他大のマークが激しく厳しいレース展開。だからこそ中村龍吉(経3)との巧みな連携で補ってみせた。「4年生の強さイコールチームの強さになる」(高島監督)。監督は背中で引っ張る最上級生をねぎらった。

落ち葉を踏み、山道を夢中で駆け登る。山梨県の昇仙峡を山本は走っていた。実家に近いこの場所は、美しい渓谷と山頂の絶景が広がる、山本の脚を鍛えた原点だ。このひとこぎひとこぎが一体どこにつながっているのか。当時16歳、高校1年生の山本には知る由もなかった。通学の定期代を浮かせるために買ったのがきっかけで始めた自転車競技。出身の韮崎高校には自転車競技部がなく、一人で立ち上げた苦労人。部として認められるのに時間がかかったが、当初は『最速の帰宅部』と呼ばれ、高校時代から結果を残してきた。

あれから6年、4㌔インディヴィデュアルパーシュートとマディソンで優勝と、大学の頂に山本は立っていた。「しっかり実力を証明できて良かった」。山本が2種目で『最速の自転車競技部員』になった瞬間だった。

「練習の過程が本当にきつい競技」と山本は語る。数々の華々しい栄光からは想像できないほど、求道者のようにハンドルを握る日々はとにかく地道。関節に負荷がかかりにくい競技特性があるからこそ練習量がものをいう。それは努力が報われやすい競技でありながら、裏を返せば走り続け、自身を追い込み続けなければならないという意味でもある。それはあまりにも過酷な時間に思えた。

しかし勝者のみが得られる歓喜の瞬間が山本の『走る意味』につながる。「自転車は長い時間戦って一人が勝つという競技なので、中毒性の高い喜びを感じられる時最高だなって」。勝ちにこだわる姿勢-。それはトラック大会の1週間後に行われたロード大会での敗北を通して感じられた。「現実として受け止めきれない」。開始早々まさかの機材トラブルで最後のインカレを終えた山本。他大選手との接触が原因だが、自分の弱さとして受け止める。「もっと練習量を増やさないといけない」。交錯する胸中から紡いだ言葉の重みが、山本のアスリートとしての矜恃(きょうじ)を示していた。

ただ言葉では容易に表現できないほどの自転車に対する特別な想い。それはロードでの悔しさがあっても変わることはない。

「自転車は自分の価値観とか生き方を変えてくれるもの。これからも大きく変えられることがあるんだろう」

誰よりも自転車と向き合い続ける。それはこれから険しいプロの舞台、世界への挑戦を控える山本の最大の武器になるだろう。高校で自転車競技の道を選び、誰にも負けない走りを追い求めた先に待っていた一つの結末。夢のように過ぎ去った4年間を振り返った時、そこから見える景色に一切の曇りはなかった。「自転車って最高だ」。

(記事、写真:辻市雄大)

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2021年9月21日(火)付で「中大スポーツ」第166号を発行いたしました。詳細はこちら