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【現役中大生オリンピアン特集2】「勇気を与えることがスポーツマンとしての意味」/池本凪沙が語る東京五輪、そしてパリ五輪への思い

東京五輪が閉幕して1ヶ月。振り返ると57年ぶりの自国開催はコロナ禍の影響で史上初の1年延期、無観客開催と異例づくしの大会となった。そんな中でも戦い抜いた17日間は若きアスリートの活躍が大いに目立った。その1人が水泳女子800m自由形リレーに出場した池本凪沙(法1)だ。急成長を続ける水泳界の若き象徴が、ロングインタビューに応じ、胸の内を語った。コロナ禍でのスポーツの価値、夢の舞台東京五輪での経験、そして2年11ヶ月後に迫る2度目の五輪についてー。

(聞き手、構成:辻市雄大)

▲笑顔でズーム取材に応じる池本

 

「自分の夢だった大舞台に立てた」

水泳を始めて13年。インタビューで五輪について語る池本の笑顔は終始眩しかった。結果は9位。目指していた決勝進出には届かなかった。しかし経験のない緊張とコロナ禍での困難を乗り越えた池本は、結果以上に価値のある手応えを感じていた。

 

8月7日、800m自由形リレーは池本にとって慣れ親しんだ東京アクアティクスセンターにて行われた。しかしそこは池本の知るいつもの競泳場ではなかった。

「オリンピック仕様の壁紙だったり、ライトの加減だったりていうのが全然違って、午後に予選があるので、午後は暗くなるからライトの加減も全然変わってきてしまうので、やっぱりそれで雰囲気も全然違ってきたり。何回もやってきた同じ会場でも東京五輪ってだけで全然違うんだなと感じました」

五輪特有の雰囲気。今までに感じたことのない緊張感が池本を襲っていた。

この5年だけではない。池本の水泳人生13年を懸けて臨む一戦。

「自分の夢見た舞台に明日とうとう出るんだなって思って、結構プレッシャーっていうか緊張がとても多かった」

頼もしい仲間に救われた。共に泳ぐのは五十嵐千尋(T&G)、白井璃緒(東洋大)、増田葵(菅公学生服)と全員が先輩。選手村でも同部屋で過ごし、レース直前まで会話をすることでお互いに緊張をほぐしあった。

ただ全体的に力みを感じるレースだった。

「引き継ぎは勢いがついて、飛び込んでいくのでそのままの勢いでいっちゃうことがあるので」

課題点を修正することは出来なかった。日本は予選を1組5着でフィニッシュ。2組目を終えて決勝に進出できる8位まではあと2秒足りなかった。予選、また観客席で見た決勝を通して世界トップレベルとの差を痛いほどに実感した。

「中国が1位だったのは本当に意外だったんですけど、生で応援席から決勝を見させてもらった時に後半のノビが全然違うなと思ったのと、体力的な問題もそうですし、そのリレーで引き継いで勢いのままいって後半持たせることが、海外のチームはすごい体力的にも有り余ってるように見えました。本当に凄いと思いました」

課題は明白だった。

800m自由形リレーでは世界水泳の時もそうなんですけど、やっぱりタイムが出づらいというのが日本チームのリレー。リレーで重視してるところでもあって、引き継ぎからのタイムっていうのが最初力んでしまって、後半バテちゃうというところが多くて、それを結構練習でも重視して前半を行き過ぎないようにっていう風な練習してたんですけど、やっぱり緊張もあってか前半行き過ぎちゃうっていう部分があったので、そこはもうちょい改善したかったなって反省してます」

決勝にはいけなかったが、悔いはない。

「9番って見えた時には残念だなっていう風にはなったんですけど、チームとしてはもうやり切ったって感じだったので」

今出せるベストは尽くせた。レースでは負けたが結果以上に大きな手応えを感じた大会。池本にとって初めての五輪は、自身の水泳人生で大きな分岐点になるだろう。

 

五輪を終え、一人のアスリートとして考えることがあった。

「スポーツをやっていない人からすれば、五輪を開催するのはどうなんだって思う方もいらっしゃると思うんですけど、開催して皆さんに勇気を与えるっていうことがスポーツマンとしての意味だと思う」

同じオリンピアンの中にはSNS等で無慈悲な言葉をかけられる選手もいた。コロナ禍での五輪ー。だからこそアスリートができること、五輪が開催することで得られる価値が必ずあったと池本は信じている。

「世の中コロナで暗い気持ちになっていたと思うんですけど、ニュースとか映像を見てもらって、1人でも多くの人が明るい雰囲気になれたんじゃないかなって思うので、いろいろな意見があると思うんですけど、明るい雰囲気になれる方が一人でも多く増えたんじゃないかなって、そこは良かったと思います」

開催に懐疑的な雰囲気が流れ、全ての人から祝福された五輪とは言えなかったかもしれない。それでも選手たちがひたむきにスポーツと向き合う17日間は、人々の心を豊かにし、困難な世の中でも明るい光を見せてくれた。

尊敬する先輩が成し遂げた快挙も列島を沸かせた。

「(大橋)悠依さんは日頃からお世話になっていた先輩なので二冠を達成した時は本当に泣きそうになりました。結果だけではなく人間性としても尊敬するところしかないなって思っています」

日本人女子初の夏季二冠。目の前で見たからこそ結果を出すことに大きな意味を感じた。

「大きい舞台で結果を出してこそ、真のアスリートだと思う」

先輩だけではない、同世代の活躍にも感化された。

「若い世代の人がメダルを取るのが多かったのですごいなと思いました。私も負けてられない」

柔道の阿部詩や体操の橋本大輝など、若き力の躍動に影響され、パリ五輪での強い決意を固めるきっかけになった。伸びしろは無限大にありそうだ。

「大学4年生の時にパリ五輪を迎えるので、大きな節目で個人種目の200m自由形でしっかり代表に入って、パリ五輪ではメダルを取りたいなと思います」

8月には日大・中大対抗戦で力泳と、もうすでに次へと動き出している。五輪を経験したことで何を強化すべきなのかは見えている。

「五輪が終わって少しお休みをいただいていたのですが、その期間に筋肉量が落ちてしまったりという部分があったので、しっかり今筋肉をつけたりウエイトトレーニングをしたりというのをしてるんですけど、それだけではなくて自分の泳ぎの特徴である重心を前にやって、大きいストロークで泳ぐ感じの泳ぎを意識してるんですけど、そこは自分の特徴であるのを崩さないようにしてスピード感を出して200mにも出せる体力をつけられたらなと思っています」

持ち味であるストロークの力を、これからも信じ続ける。その先には必ず目指すべき真のアスリート像があるから。

 

 

プロフィール2002年8月25日、京都府出身。法学部。

来歴:6歳の頃市民プールで父親と遊んだことがきっかけで水泳を始める。小学校ではバスケットボールをしながら中学生以降は水泳に専念し、現在に至る。

戦績2017年全国ジュニアオリンピックカップ春季水泳競技大会 女子50m100m自由形で優勝、2019年には世界水泳で800m自由形リレーにチーム最年少で出場

選手村:楽しかった思い出は「卓球台などがある休憩スペースのような場所で南アフリカの選手と卓球ができたこと」。また食事がおいしさに驚いたらしく、「特に餃子がおいしくて、皆に食べてほしいと思いました」とのこと。

ストローク:池本の泳ぎの強みは「ストローク」。水泳における手足のかきを意味し、特に花形種目である自由形ではストロークが重要になる。171㌢の長身を生かした大きなストロークをで伸びのある泳ぎを展開する。

 

アイキャッチ画像:杉本哲大/アフロスポーツ