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中大出身Jリーグ監督特集第1弾-いわきFC監督 田村雄三氏 「常に学ぶ姿勢を大切に」

リーグ戦で指示を出す田村氏(写真提供=いわきFC)

 

プロの世界へ
中大を卒業後は当時J2クラブだった湘南ベルマーレに加入し、2010年に現役を引退するまで湘南一筋でプレーされました。

──プロサッカー選手になった後、中大での経験が生かされたと思ったことは

高校生よりは、社交性というか、昔なので今だとちょっとわからないですけどそれかな。大学4年間で先輩から教わったことも多々あるし、プロといえども社会人だと思うので、すんなり社会人の方々の中に入っていけたというのは大きなことかなと思っています。それはサッカーのレベルとかサッカーが通用したとかそういうのじゃなくて、一人の人間として社会性を主に教えてもらえたこと、そこは感謝しているかな。

──憧れの選手やお手本にしてる選手はいたか

高校時代はそれこそ田中達也(元日本代表、現アルビレックス新潟コーチ)と同期で、「こいつすげえな、こういうのがプロ行くのか」と挫折して、大学に行ったら中村憲剛がいて「すごいな、でもポジション違うしな」とか思っていて、プロになってからもたくさんいい選手を見てきた。でもその中の誰かというより、自分のイメージ的には海外だとガットゥーゾ(元イタリア代表)。誰かうまい選手の影で輝く、こういう生き方もあるんだとかは思ったし、日本人で言ったら明神さん(明神智和、元日本代表)とか。それこそ、プロになる時に「雄三は明神になれ。ああいう気の利くじゃないけど、目立つ存在じゃないけど」というのは中村憲剛に言われたので、確かに自分が表に出るというより、周りを生かすために自分が身を粉にしてやるというのは、なんとなく自分の理想というか確かにいい選手だなという思いはあったかもしれないですね。

──対戦相手、もしくはチームメイトの中で1番衝撃を受けた選手は

それで言ったら中村憲剛じゃないですか。大学時代、選抜のセレクションに行ってもすぐ落ちていたけど、憲剛さんは最後の年に2部で本当に目立っていたし、止められない存在だった。みんなが本当に自由にやらせてたから、「なんでお前そのドリブルすんだよ」みたいなこともあった。僕らからしたら中村憲剛はめちゃめちゃドリブラーなんですよ。今はパサーだとみんな認知しているけど、同世代に聞いたらみんな言うと思います、ドリブラーって。ドリブラーというそのギャップがあったから、プロでああいう風になるんだって。元々うまかったですけど、さらにうまいし速いし、そういうのは思っていますかね。

──選手時代で1番大きかった挫折

怪我が多かったけど、当時はその怪我は挫折というよりは自分が与えられた試練だと思って取り組んでいたかな。もっと怪我をしない体づくりだったりケアだったりとか、その当時ももちろん気をつけていたけど、食事のこととか今いわきでやってるようなことを、その当時に自分ができていたらもっと良かったかなとは思っています。

 

育成の重要性
現役引退後は現在に至るまで、湘南ベルマーレといわきFCで、アカデミーコーチ、スカウト、監督などさまざまな立場を歴任されてきました。

──指導者を目指そうと思ったきっかけ

きっかけはもう会社の言われるがままに、命令のままです。1年目にスカウトをやらせていただいて、実際はスカウトというかフリーマンでいろんなことをやらせていただいて、スカウトをやっているとやはり育成をできないとダメだなと思ったんですよ。育成の気持ちがわからないと、育成の目線で選手を見て大学のプラス4年間でこういう風に変わるのか、こういう選手はこうなるのかとかがわからない。もちろん、関わる指導者にもよると思いますが、そう考えたら絶対育成は関わっていないとダメだと思って。2012年からユースのコーチをやって、その時指導者をやろうとは自分で思わなかったですけど、たまたま2012年に曺貴裁(現京都サンガFC監督)が湘南の監督やると同時に同じフロアにいさせてもらったので、2012、13年はもう本当に地獄のように働いてましたね。朝トップチームの練習に出て、昼間ご飯食べてすぐユースの練習をやってとか、もう1日中会社にいたので。でもそれがあったから、指導者、育成、トップチームもずっと見させてもらって、こういう選手はこういう風になるんだとか、なるかもとか、こういう風に接したらいいのかというのは全部見ることができました。その約2年間はとても良かったです。

──強化部、スカウト、監督などの立場の違いで選手やサッカーの見方はどのように変わるのか

全部つながっていると思っています。強化部長でもスカウトでも、指導者がやらなかったら、この選手がこういう風になる、こういう風に成長するというのをわかっていなかったら、多分難しいかなと思っています。だから最近、監督だった人がそのクラブのトップやGM(ゼネラルマネージャー)をやるようになっているのはすごくいいなというか、選手はこういう風に成長するとか育成も分かっているし、勝利のことも方程式じゃないけれども、育成とのバランスも分かっている人がちゃんとやるというのはいいと思う。そうじゃないとクラブのフィロソフィーも作れないと思うし、選手の見方も偏っていたら選手も多分納得しないと思うので、そういう見方、両方の目で見れるというのは、すごく大事だと思います。僕は若くしてそういうことを経験させてもらったから、 これからも大事にしていきたいと思っています。

チーム練習中の田村氏(写真提供=いわきFC)

 

選手の成長と勝利
さまざまな立場を経験され、昨シーズン途中から約2年半ぶりにいわきFCの監督に復帰されました。監督としてどんなことを考え、どうサッカーに向き合っているのかに迫ります。

──監督をやっていて1番やりがいを感じるのはいつか

監督はみんな勝利を目指しているし、 勝利を目指していない監督はいないと思うので、勝つ喜びというのは監督としてすごく大事なことです。そのためにやっているので、個人的な賞をもらうというのはそれのついでについてくることだと思っていて、でも自分1人では絶対成し遂げられないことだと思うので、スタッフの協力があって取れたものであり、個人賞とかで嬉しいというのは1つもないです。 

今いわきで起きていることだと、J1チームに選手が引き抜かれるとか、J2やJ3のチームからもオファーがきて移籍するとか。みんなそういう風に移籍するというのは、チームの結果こそそれほど出なかったけれども、 みんなであの手この手で協力して1人の選手として成長させよう、育てようということがそういう移籍につながったのであれば、そういう方が嬉しいかな。結果的に選手の成長がそういう形で表れたということは嬉しいし、 普段の練習でできなかったことを少しずつやって、試合で少しできるようになったのも嬉しいし、 どちらかというとそっちの方が指導者冥利かな。勝利はみんな目指しているし、勝利から逆算してやっているけど、1人の選手の成長するさまというか過程というか、そういうのが1番嬉しいかな。むしろ指導者はそれがなかったら多分やらない方がいいですね。

──逆に一番難しいと感じることはなにか

今の話と一緒で、その上で勝たなくてはいけないことですかね。育成の方に重きを置いても、それは小学生、中学生、高校生、大学生、プロで勝利とのバランスが違うと思うし、プロだとクラブによって違うと思う。絶対何がなんでも勝たなくてはいけないクラブはあるし、そうじゃないクラブもある。前提ではみんな勝利を目指しているけれども、自分の勝利だけ目指しても選手は育たないし、俗に言う育成クラブじゃないけれども育成だけしてても勝たないと選手の自信にもならないし、周りを納得させることもできないと思うので、そういう意味ではその両方を追いかけるという難しさはすごく感じています。

──理想の指導者像、監督像は

おそらく監督としてJリーグクラブの中で1番若い方にはなると思いますが、本当に先輩方がたくさんいますし、これだけ情報社会で 戦術とかは即座に見れるし、いろんな試合も見れるし、なんでも自分のものにできる時代だけれども、これからますますサッカー界はいろんな情報をすごく早く手にしやすいし、自分のものにできやすい時代だと思う。だからこそ、誰かこの監督というよりは自分が常に学ぶ姿勢を持って、スポンジじゃないけど、あの人のここいいから真似てしまおうとか、そういうスタンスではいます。この人いいなという人は多くいますが、この人のこういうところが素晴らしいな、なんでこのチームってこういう風に変化してこういう風になっているのかとかをいろんなツテで話を聞いて、やり方とかをどんどん自分のものにしていくことが大事かな。基本的には指導者が学ぼうと思わなかったらもう終わりかなと思っています。

 

クラブフィロソフィーの体現
田村監督率いるいわきFCは2024シーズン、J2リーグでの2シーズン目を迎えます。そんなチームについても監督の視点からお話しいただきました。

──2024シーズンの目標、どんなチームにしたいか

先ほど触れたように、選手が結構抜かれて新加入の選手が増えるので、どちらかというと新チームのイメージはありますが、いわきというチームはクラブフィロソフィーがあって、フットボールフィロソフィーもしっかりしている。そのクラブの目指す理念とかを逆算してチームを作っているわけなので、しっかりそれを体現できるようなチームを作りたいと思っています。2023年の反省からすると、そのうえでしっかり勝利をしていかなくてはいけないかなというように思っているので、今年以上に結構難しい作業になるかなとは思いますが、勝利を目指しつつ1人でも多く上のステージに選手を送り出せるようにやっていきたいとは思っています。

──J2リーグでの初年度を終えて、J3までのリーグとの1番大きい違いはなにか

個人の能力の違いがやはり1番大きいと思います。

──いわきFCを知らない人に魅力を伝えるとしたら

若者がミスを恐れずチャレンジをする姿だったりとか、このクラブが震災をきっかけにできたという生い立ち、この地域の人たちの生き様、 復興から成長へということで、後ろを振り返るわけでもなく前に行くということをサッカーに落としている、魂のフットボールの姿だったりを見せたいと思うし、共感を得ていただけたらうれしいなと思っています。もちろん勝敗のことはあると思いますが、このクラブが作り上げる熱狂空間というものを現場としては見せたいし、 そういう熱狂空間でワクワクドキドキ、もしかしたら新しいコミュニティ、出会いが生まれるかもしれない。そういう空間を提供したいなと思っています。