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【箱根駅伝特集2024/戮力協心】第9回 藤原正和駅伝監督

3冠を掲げて臨んだ三大駅伝は、出雲駅伝7位、全日本大学駅伝4位という結果に終わった中大。残るチャンスは箱根のみ、「戮力協心」で悲願の優勝へ―。大会を目前とした選手たちは何を思い、何を目指すのか。

第9回は藤原正和駅伝監督。総合2位を果たした前回大会から1年、そして監督就任から8年、ようやく「優勝」を掲げるチームに返り咲いた中央大学。その決戦の舞台が目前に迫った今、チームの状況や4年生世代、そして100回大会に向けた思いについて語っていただいた。(取材は11月30日に行いました)


「今年は就任以来、一番早く区間を伝えられている」

▲今年度は「エース力の底上げ」と「中間層の育成」に注力してきた

―(合宿直前とのことで)最終合宿のポイントは

そうですね、基本的に土台作りっていうのはもう今月や来月頭では終わっていますので、より箱根を考えたときの実践的な練習がメインになるのがこの強化合宿のところではないかなと思います。なので、一回一回のポイントが非常にこう、緊張感も高まりますし、質も高くなったものを実施しますので、外したらそこでメンバーがないという緊張感の中で全員が戦っていくようになりますので、いい形で全員が生き残ってくれればいいんですけど、やはり「優勝」というところを目指している限り非常にチャレンジとなる練習も増えてくると思いますので、特に往路を担う選手に関しては、きっちりとまずは100%の消化率を目指してやってもらいたいなと思っています。

―取り組み方や内容は例年通りですか

はい、ここ3年、基本的にこの合宿の内容自体はそんなに変えてはいないので、それのタイム設定だとかが、今年少し高くなるかなという印象ですかね。

―チーム内の雰囲気や士気についてはどう感じているか

まだ全体への投げかけの部分は(最終選考であった)日体まで見ているよ、という形で進めていますので、まだこう、まあ自分は入るだろうなと思っている子はより箱根に向けて余念がないという感じですけれども、逆に今週日体出る子なんかは非常に集中していますよね。「最後のチャンスに懸けたい」、「ここで結果を出したい」というモチベーションも非常に高いので、そういった意味では、チーム内のテンションとしては緊張感が高まった中で、選考の11月を過ごせてこれているかなと。最終盤になってきて、いよいよここで自分のチャンスをつかめるかどうか決まるなという雰囲気になっているので、非常にピリッとした空気でやれているのではないかと思います。

―「主力選手は区間配置の目途が立っている」と以前仰っていましたが、区間決めも例年より早いのでしょうか

私自身が入職してから8年目になりますけど、一番早く区間を伝えられているのが今年じゃないかなと思います。目途が立っている人には何区をやってほしいと話をして、本人がそこでやれるということ、2年前とか例えば手島駿(令4卒)を早めに2区に据えるようなことがあったんですけれども、ちょっと早めに覚悟を持たせたいという意味で。はやめに言ってあげないと準備の部分ができないだろうなというがあったりしたんですけど、ここまで早く、こういう意図で置くということを話して、その準備に1ヵ月使ってくれと言ったことはないと思うので、主要区間だとかに関してはもう伝えています。あとはまあ復路で競るであろう区間を大いに競ってもらって、勝ち残った選手で戦いたいなというところですかね。

 

中大再建のカギとなった4年生

中大の再躍進は4年生の存在無くして語れない。第97回箱根駅伝予選会では当時1年生だった吉居大和(法4)がチームトップの成績で予選2位通過に大きく貢献。それからの4年間、中央大学は凄まじい成長曲線を描き予選会常連校から優勝候補校にまで名をあげることとなった。迎える彼らの集大成に向け、4年生への思いに迫る。

▲吉居大は「藤原監督に出会えてよかった。(箱根では)しっかり貢献して喜んでもらえたらうれしい」と語る。

―吉居大選手について、監督から熱心にスカウトがあったと本人からもお伺いしたが、スカウトに至った経緯は

彼の走りを生でみたのが、彼が高校2年生の時のインターハイに向けての東北大会ですね。そのときに6番で滑り込んでインターハイに駒を進めたんですけども、そのラストの勝負の仕方といったらいいのかな。すごく自分でレースを作っていった上で最後生き残っていったというところに、なんかこう「勝負強いな」というところが最初の印象で、当時の顧問で今は大東文化大監督の真名子圭先生といろいろ話をしていくうちに、非常に本人とも話す機会を下さって、魅力的だなというところでスカウト活動を本格化させて。2年生の時の全国高校駅伝の2区をちょっと失敗したんですよね、大和自身が。で、そのあとの練習の見学なんか行ったときも、最初は落ち込んだ表情していましたけど、やっぱりそこからもう一回復活していく姿を見ていて、なんかこういう挫折をしている子は絶対強くなるだろうなって思って、絶対にこの選手は来てほしいなという想いを強くしたのは覚えていますかね。

―大和選手の4年間を振り返り成長したと思う部分、または強みはどこであると感じているか

そうですね、やっぱりものはあれだけある子ですから。全体的なその1500㍍からハーフまで、全種目のアベレージをハイアベレージに上げられたことは、彼の4年間の努力のたまものかなと。ただ1年目に出した13分25秒という5000㍍のベストを逆に4年生までなかなか更新させてやれなかったので、そこは監督として指導力不足だったとこちらの反省点として大いにあります。ただ、入ってきてもらったときにトラックはもう活躍するだろうなという憶測は何となく立っていたんですけど、ちょっとハーフだとか苦しむんじゃないのかなという風に思っていたのが、1年目は当然上手くいかなかったですけど、2年目3年目とあれだけのインパクトのある箱根の走りをしているので、そういう意味では、考えていたのが逆って言ったらいいのかな、駅伝でこんなに成功すると思っていなかった分、トラックでのアプローチの仕方をもっと僕らが考えなければ行けなかったなという、そういう反省がある4年間だったという感じですかね。

―将来はどのような選手になってほしいか

来年はやはりパリ五輪もありますし、そこまでは5000㍍で勝負したいと本人も言っていますので、おおいにやってほしいなと。ロサンゼルスまでは1万で、そこからマラソンにシフトしていくということもお話していますので、最終的にはマラソンで日の丸をつけて、マラソンでなくても全然いいんですけど、トラックでそういう日本を代表する選手にとにかく育ってもらって。なんかこう、やっぱり陸上界で言うと今早稲田出身の大迫(傑)君が成功モデルとしてあると思うんですけども、そんな大迫君の成長すらも超えるような、そんな選手にぜひ育ってほしいなという願いは持っています。

▲中野翔は3000㍍と1万㍍で中大記録を樹立した

―2大エースとして活躍した中野翔太(法4)選手の4年間について

ほんとにあの子は1年目が上手く走れなくて、本当にけがを繰り返していたんですけども、その間本人的には腐っていた時期もあったとは思うんですけど、はたから見ている限りはやるべきことをきっちりとやっていましたし、よくあの1年我慢したなというのが、あの子の心の素質と言ったらいいんですかね、忍耐強いところが素質なのかなと一番、そう思います。僕らとしてそういう意味ではまだ大学3年生の身体だと思っているので、まだまだ伸びしろはたっぷりあると思いますし、注目のされ方が吉居大にやっぱり皆さん注目されるので、実は中野翔も同じタイムだとか、昨年は区間賞も取っていますので、どちらかというと日陰に隠れているってことはないけど、実力相応の評価はいただいていないんじゃないかなと思うので、ここから先、大和に並んで追い越すような、そんな成長をしてほしいなと思っています。

―お二人の入学というのはチームへの影響力も大きかったですか

ちょうどコロナ禍のスタートのところで彼らが入ってきてというところで、非常に難しかったと思うんですよね。ただ、そんなコロナ禍の中、学内でちゃんと記録会を行える準備はしていましたので、一発目、新人含めて1万の記録会をやれたときに、大和が28分53、中野も28分58くらいで走ってきて、上級生たちがもうやばいって言ったらいいのかな(笑)、うかうかしていられないなという雰囲気になったのは、彼ら2人のインパクトのある走りがあったからこそだったと思いますし、やらないといけないという雰囲気になったので、彼らが変えてくれたと言っても過言ではないですよね。

▲2年次、箱根駅伝予選会に出場した中野翔と吉居大(写真提供:陸上競技部)

―湯浅仁(経4)選手はこの1年、競技面においても結果を残したが、キャプテンとしてのこの1年はどう評価しているか

キャプテン副キャプテン、なにかしらチームをまとめるという役職に就いた選手というのはなかなかこう個人の伸びって難しいと思うんですよね。やっぱりチームの輪を作らないといけないですし、色々なところに気遣いだとか目配せをしないといけないという意味では個人の能力が伸びるというのはそうそう4年目はないんですけども、彼が凄いのは、当然輪をつくったりとか、周りへの気配せ目配せはやるんですけれど、その中で自分のやるべきことをきっちりとやって、ある意味4年目で一番伸びた選手ともいえるので。湯浅みたいに皆やってくれれば、皆強くなれるよっていうくらいの努力をやっていると言えばいいのかな。それくらいお手本になる選手です。

▲11月のMARCH対抗戦でもチームトップの湯浅。監督については「1人の人間として尊敬している。藤原監督みたいな人間になりたい」と話す。

―4年間の成長はどうみているか

競技面でいうと、もとから距離はできる選手だったので圧倒的にスピードスキルが付いたのと、元から色々なことを継続させる心の素養はあったと思うんですけども、それを無くさずにずっと持ち続けているという部分は流石だなと思うところです。あとは前はね、今でも真面目な方ですけど、真面目すぎてこう、入り込みすぎてしまうといいますか、そういう傾向があったのが、僕らがアドバイスしたりというのもあったかもしれないですけど、周りを見る余裕だとか、少し自分の中で走ることに対して楽しむ心を持てるようになって、そういう部分が出てきてからは、より自分の走りに余裕が生まれてきているのかなと思うので、心の成長の部分も一番彼自身をいい意味で変えていったのかなと今はそう思いますかね。

―監督からみて4年生はどんな学年か

個性派集団と言ったらいいんですかね、コロナでスタートして学年の輪は作りにくかったと思うんですよね、集まれというよりは個別で過ごしなさい、という。そういう期間から最初は入らざるを得なかった部分もありますし、最初に上手く輪を作ってやれなかった部分はあった中で、自分の個を磨いていくなかで、この世代まとまるかなと思っていたんですが、やはり4年生になるときっちり自分たちの意見を出し合ってまとまってきたので。なんとなく僕らが知っている伝統的な中大の学年と言ったらいいのかな。中大って個が尖っている選手が多くてその力が結集したときに強いというイメージが何となくあるんですけども、それに近いような学年だったかなと思いますね。なので、本当はもっともっと、例えばですけどメンバー争いしています園木(大斗=法4)だとか、大澤(健人=文4)、けがで苦しみましたけど2年目箱根を走った居田(優太=経4)もいますし、走るべき選手を上手く走らせていければもっと強い世代になったのかなという、僕らの中の反省としてはあるので、学年としてもう少しうまくマネジメントしてあげればよかったなという思いも僕ら側としてはあります。

▲9月夏合宿取材時にも「(4年生は)非常に頼りにしている」と厚い信頼が伺えた

―園木選手の復帰について

そうですね、言い方あれかもしれないですけど急激に戻っています(笑)なんかよくわからないですけどあいつは(笑)。それこそ夏くらいまではなかなか上手く練習を継続できなかったのが、夏くらいからちょっとずつ、これくらいの量で、というのを少しづつ積み重ねていって、本当にポイントらしい練習始めたの10月くらいからですかね。ちょっとずつ始めていって11月に入って急激に上がってきたという感じなので、そう考えると3ヵ月しっかりとつめれば箱根の距離自体は十分に走れるかと思うので。やっぱり4年生、当然3本の柱はいますけど、ああいう苦しんできた選手が最後にばっと入ってくると、チームへの盛り上がりというのが大きいですし、僕らとしては園木って今の湯浅になっててもおかしくないくらいの素材だと思っていたので、それがけがでなかなか上手くいかなかったところを最後ああやって上がってきているのは、彼の中の意地を見ているというか、楽しみにしているところではありますかね。

―箱根では4年生のどんな走りを期待していますか

やっぱり優勝するためにはですね、求められるレベルは高いとは思うのですが、これはもう4年生皆に言うことですけども、4年間の想いを全部乗せて、その区間を全うしてほしいのと、走れなかった4年生の分まで頑張るという、そこだけはぶらさずに、全力で駆け抜けてほしいなとそう思っています。また、競技継続者もこの学年非常に多いので、その先シニアになってから実業団行ったときにもっと高いレベルでお互い顔合わせて、一緒に走ってくれて勝ち負けをやってくれたら、僕らとしても言うことはないですかね。周りの力を自分の力にして走ってほしいですね。

 

100回大会で「悲願」へ

▲16名のエントリーメンバー

―藤原監督にとって箱根駅伝はやはり特別な舞台か

ここだけは取りたいという想いはやはり強いですね。ですし、本学の歴史からしても中央大学の歴史=箱根駅伝の歴史というところがあると自負はしていますので、他の駅伝も当然全力で戦ってはいますけど、やはりここ一番に懸ける思いというのは、それは僕らだけではなくて学生も同じようにここに懸ける思いは強いと思っています。

―第100回大会優勝への想い

やはり100回に優勝というのはもちろん、100回ってキャッチ―な部分も当然あるんですけど、先も言いましたようにコロナの中で入ってきたあの子たちがなかなか目標が持てなかった中で、僕らとしてはやはりいい素材が揃っている世代だから、何とか前を向かせてあげたいなというところで、「ちょうど君たちが4年生のときに箱根駅伝第100回大会だから、この世代で俺は優勝したいと思っている」という話をしたときに、なんかこう目に力が出てきたというかね、そこのミーティングの場面はすごく私自身も覚えているので、言ったからにはかなえさせてあげたいなというのが、指導者としてやるべきことだと思っているので、この大会に向けての想いというのは非常に強いですかね。

―残り1ヵ月、勝つために必要なことは何であると思うか

残りの1ヵ月ってなると、対相手というよりもまずは自分たちかなと。そこはもうどのチームもそうだとは思うんですけどね。自分たちの100%を出せる、あるいは120%出せる準備をこの1ヵ月しっかりやっていかないと、スタートラインにすらとにかく立てないわけですから、まずは自分たちの良い状態、完璧な状態でスタートラインに10人が立てるという状況をまず作り出すことが、勝ちへの最低の条件だと思いますので、その部分を徹底してやっていきたいなと。あとは非常にこう、去年はこの時点で中野翔が何とか間に合うかどうかかなとか、色々な不安要素があった中だったんですけども、今年はエース3人もしっかりと足並みを揃えましたし、そこに湯浅だとか阿部(陽樹=文3)、溜池(一太=文2)、吉中(祐太=文2)、走るべき選手もしっかり走ってきて、1年生に本間(颯=経1)や柴田(大地=文1)、ちょっと出雲で悔しい思いした浦田(優斗=経3)とか、十分に思いを持って走れる選手は揃ってきたので、あとは一人一人の個性を生かして、最適な区間配置をやっていきたいなと。相手というよりも、自分たちの強みを最大限発揮できる区間を組んでいきたいなと思っています。

―最後に改めて箱根への意気込みを

今年一年、この大会に向けてチームビルディングの方は行ってきたので、その集大成となる大会を、もちろん結果を追いかけて戦うんですけども、このチームにふさわしい結果を出させてあげられるように、この1ヵ月自分自身注力していきたいなと思っています。あとは10区のアンカーが笑顔で大手町に帰って来れるように、「全員駅伝」で戦っていきたいなと思っています。

(取材、構成:小幡千尋)

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